プロジェクトマネージャーのスキルで生きる道

エンジニア育成

 

エンジニアは、一つの技術領域で成功したいと思っている人が多いと思うけど、プロジェクトマネージャー(PM)というのも、立派な一つの専門スキルで、PMスキルって意外と世の中で重宝される仕事だと思います。

トヨタのチーフエンジニアっていうのが、プロジェクトマネージャーの見本みたいなものでしょ。トヨタのチーフエンジニアって、トヨタでは準役員クラスで、スーパーマン的存在だそうよ。

プロジェクトマネージャーへのキャリアパス

 

製品開発組織において、プロジェクトマネージャーの役割は非常に大きいと思います。

製品開発のQCDを守るだけでなく、本来はその製品が市場に受け入れられるかどうかの責任も持っているべきものだと思います。

しかし、多くの製造業において、製品開発のプロジェクトマネージャーは、ある程度エンジニアとしての経験を積んで、ある専門分野で認められるようになってから、言葉は悪いですが、押し出されるような恰好でプロジェクトマネージャーを任されるというケースが多いように思います。

もちろん、製品開発におけるプロジェクトマネージャーは、エンジニアの活動を管理するのですから、エンジニアの代表のような位置づけになって、エンジニアから選抜される形になるのも理解は出来るのですが、役割の重要性から考えると独立したプロフェッショナルとして、技術専門職とは別に育成、認知すべきではないかと考えます。

エンジニアの経験とプロジェクトマネージャーとしての力量アップをどんなバランスで考えるべきか、ということもしっかり考えたいですね。

 

トヨタのチーフエンジニア制

プロジェクトマネージャーの見本と言えば、トヨタのチーフエンジニアではないかと思います。

基本的には、開発のリーダーというだけでなく、企画、販売、購買、生産まで、すべてのバリューチェーンの全責任を負うリーダーです。

色んな神話があるし、書籍も多数出版されていますが、北川尚人さんという実際にトヨタでチーフエンジニアをやってらした方の書いた「トヨタチーフエンジニアの仕事」という本に、チーフエンジニアの役割、チーフエンジニアに求められる資質、育成方法などが詳しく説明されています。

この本の中で、北川さんが作られたチーフエンジニアの心構え17か条というのが非常に興味深く、どれもなるほどと思えるのですが、こんな完璧な人を生み出すのは簡単なことではないだろうし、それが出来るのがトヨタの強みなのだろうと率直に感じました。

 

北川尚人さんのチーフエンジニア(CE)17か条

  1. 車の企画開発は情熱だ、CEは寝ても覚めても独創商品の実現を思い続けよ
  2. CEは高い目標を完遂できる段取り力を身につけよ
  3. CEは誰よりも旺盛な知的好奇心を持て
  4. CEは自分の思いや考えをわかりやすく表出する能力を身につけよ
  5. CEはいざという時に助けてくれる幅広い人脈を作っておけ
  6. CEは自分のグループの人事・庶務課長と心得よ
  7. CEは愚直に地道に徹底的に図面をチェックすべし
  8. CEは愚直に地道に徹底的に原価の畑を耕し原価目標を達成すべし
  9. CEは自分の商品をどう売るか営業任せにするな、自分なりに宣伝、売り方を考えよ
  10. CEは自分に足りない専門知識は専門家を上手に使え、しかし常に勉強を怠るな
  11. CEは現地現物を率先垂範せよ、自らの五感を総動員して体感せよ
  12. CEは早い段階で「ユーザーとの対話型開発」を実践せよ、迷ったらお客様を観察せよ
  13. CEは開発日程遅れを最大の恥と思え
  14. CEは一生懸命若手や次世代CEを育てよ、時には厳しく上手に叱れ
  15. CEは最も強力な新市場開拓の営業マン、積極的に新市場へ出かけよ
  16. CEは自分を支えてくれる関係者全員に対する感謝の心を常に忘れるな
  17. CEは24時間戦える体力、気力を日頃から養っておくこと

※北川尚人著「トヨタチーフエンジニアの仕事」からの引用

 

トヨタのチーフエンジニアは、技術部門の中の製品企画部に所属するらしいのですが、基本的にはエンジニア、またはデザイナー出身者からなる組織で、開発テーマごとに一人のチーフエンジニアが任命され、その下に数人の主査と呼ばれる人が付き、場合によってはさらに主査の下に主査付きという人が付いて、チーフエンジニアとしての仕事をこなすのだそうです。

チーフエンジニアは、そのテーマの全責任を負うのですが、しかしながらエンジニアを部下にするのではなく、エンジニアとは技術組織の管理職を通して繋がっていて、チーフエンジニアと技術組織の間は色んな壁があるのだそうですが、それを乗り越えるのもトヨタの文化のようです。

実際のプロジェクトの進行は、大部屋という仕組みで、プロジェクトメンバーが一堂に会して、密なコミュニケーションの元で行われるというのも興味深い話でした。

ここで注目したいのは、チーフエンジニアは、エンジニアとして何年かの経験をした後、チーフエンジニア組織(製品企画部)に異動すると、そこからはエンジニアの組織とは別のキャリアを進むということです。

さらに、主査付きとして見習いとなり、主査になってチーフエンジニアを助けながら、優秀なチーフエンジニアになるための修行をしていくということです。

このとき、北川さんの言うような17か条を身をもって示してくれる先輩から、OJTでチーフエンジニアとしての仕事を学び、その働きを継承していくのだと思います。

チーフエンジニア制は、優れたシステムだとおっしゃる反面、チーフエンジニアだけが仕事をしているわけではなく、チーフエンジニアがうまく機能するための仕組みや文化がトヨタにはあるのだと北川さんはおっしゃっています。

北川さん自身、たくさんの車種のチーフエンジニアを務め上げ、たくさんのヒット車を世の中に送り出してこられたようで、その自信と満足感が本から伝わってきます。

非常に大変な仕事でもあるので、なりたいという人が少ないという悩みもあるようですが、私は本当にやりがいのある仕事だと思うし、何かの技術を身につけるよりも、世界のどこへ行っても通用するスキルではないかと思います。

 

プロジェクトマネージャーという仕事の魅力

私自身は、トヨタのチーフエンジニアではないですが、日米複数の企業でプロジェクトマネージャーとして多くの製品を世の中にリリースしてきました。

もともとは、日本の大手精密機器メーカーで、制御回路や画像処理回路のハードウェアエンジニアとしてのキャリアを積んでから技術組織の管理職に就き、その後、縁があって外資系企業に転職して、そこでプロジェクトマネージャーとしてのキャリアに転身していきました。

様々な製品のプロジェクトマネージメントを経験しましたが、米系EMS企業で働いていた時には、中国人、ベルギー人、アメリカ人からなる50人規模の液晶テレビの開発チームのプロジェクトマネージャー(総リーダー)をしたことがあります。

トラブルが続いて、顧客の要求日程が守れなくなるという状況で、リリーフとして問題解決にあたるという役割ではありましたが、思い返すと、自分にとっては非常に意義のある経験でした。

日本の大手電機メーカー向けに液晶テレビをOEM供給するプロジェクトで、海外企業の立場で日本企業とお付き合いする非常に難しいプロジェクトであり、また、私自身、テレビの開発は未経験でしたが、このときにはっきりとわかったのは、テレビも通信機器も精密機器も、製品開発の本質は同じだということでした。

このプロジェクトは事業的には大成功とはいきませんでしたが、日本企業の独特な品質意識(ちょっと過剰?)と欧米、中国という異文化とのギャップを全部含めて管理して、総リーダーとして開発チームをまとめて製品をリリースできたことは、私にとって忘れられない経験になりました。

この経験があったことで、その後、通信機器、車載機器、半導体設計、オフィス用機器など分野を問わない製品開発プロジェクトでヒット商品を多数出すことが出来たのだと思います。

また、現在、技術コンサルタントとして、計測器、家電、医療機器、材料メーカーなど、分野に関係なく技術開発に関する支援が出来るのも、プロジェクトマネージャーとしての経験があったからこそだと思っています。

プロジェクトマネージャーは、技術は領域に関係なく、技術だけでなく、製品企画、マーケティング、品質保証、コスト管理、購買、営業、生産、サービスまで、その製品のサプライチェーン、バリューチェンのすべてに関与して、そのうえでプロジェクトを成功させる責任があります。

ということは、サプライチェーン、バリューチェーンの全般に対する知識を持っていることになり、プロジェクトマネージャーのプロフェッショナルとは、技術に関してもこの製品は知らないということは出来ないので、短時間で知らなかった製品について理解し、10年経験があるような顔をして語れるようになるという特技を得ることになります。

この特技が身に着くと、どこへ行っても通用する技術系ビジネスパーソンになれるというわけです。

自分が歩んできた道ではありますが、私は、エンジニアの生きる道としてプロジェクトマネージャーのプロになるという道を、早くから選択して進む人がもっと増えてもいいと思っています。

 

プロジェクトマネージャーのスキルで生きる道

 

トヨタの例でもプロジェクトマネージャーを目指す前に、どれくらいエンジニアとしての修行が必要かという定義はないようです。

しかしながら、優れたプロジェクトマネージャーになって、世の中で喜ばれる商品を出し続けて、自分も生きがいを感じたいのであれば、早くその道に進む決断をすべきだと思います。

北川さんの17か条を見てわかるように、優秀なプロジェクトマネージャーになるには、センスや資質ももちろん必要ですが、努力をし続けなければならないのだと思います。

優秀なプロジェクトマネージャーとして生きていく決心をしたら、何をどんな風に学び、スキルアップすべきかということを説明します。

 

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)

プロジェクトマネージャーとして成功するための知識とノウハウを体系化したPMBOKという参考書のようなものがあります。

PMBOKは、PMI(Project Management Institute)というアメリカにあるプロジェクトマネージメントに関する非営利団体が発行しているもので、さらに、PMBOKの普及、プロジェクトマネージメントのレベル向上のためPMP(Project Management Professional)という資格制度を設け、PMP試験を実施しています。

あくまで個人的な意見ですが、PMP試験をパスすることと、実際のプロジェクトマネージャーとしてのレベルはあまり関係ないようにも思います。

ただ、PMBOKはプロジェクトマネージャーとしての知識を獲得するには、一通り学んでおいてもいいものだと思います。

企業によっては、PMBOKの学習を強力に推進していたり、PMP試験を取ることをプロジェクトマネージャーになるために必須にしている会社もあるようです。

2021年に発行予定のPMBOK第7版(2020年予定が遅れている)では、内容がかなり刷新されるようですが、第6版までの内容は、3つのパート(入力→ツールと実践技法→出力)、5つのプロセス(立ち上げ、計画、実行、管理・監視、終結)と10の知識エリア(品質管理、原価管理、スケジュール管理、スコープ管理、要員管理、コミュニケーション管理、リスク管理、調達管理、ステークホルダー管理、統合管理)の3×5×10の立体構造として構成されています。

第7版では、だいぶ構成が変わるようで、時代の変化を背景に、デジタル化、アジャイルへの対応、実践を考慮した原則主義のような考え方が取り入れらると予想されていますが、6版までの考え方も、基本知識としては十分有用だと思います。

 

PMBOKの存在や、内容を考えると、やはりプロジェクトマネージメントは、それ自体が専門性が高い分野であって、エンジニアとして専門技術の積み上げをやっただけでは、優秀なプロジェクトマネージャーにはなれないと考えるべきだと思います。

ただ、PMBOKはあくまでもプロジェクトマネージャーとして必要な知識ですので、これを学べば実践できるというわけではありません。

知識と実践はまったく別のものです。

プロジェクトマネージャーとして生きていくには、PMBOKのような知識はまずはあっさりと修得してください。

そのうえで、実践できる人になるためにやれることを次に紹介していきます。

 

プロジェクトマネージャーに必要な資質とスキルアップ法

経験から、プロジェクトマネージメントを成功裏に実践するには、以下の能力が必要だと思います。

  1. 論理思考力(ロジカルシンキング)
  2. コミュニケーション力、言語力
  3. マーケティング思考、顧客思考
  4. 段取り力、危機管理能力
  5. 行動力

この5つの中で、知識によって、つまり勉強すればある程度身に着くのは、3のマーケティング思考と、4の危機管理能力かと思います、

1の論理思考力は、私個人はかなり重要だと思っていますが、これはセンスや持って生まれた地頭という部分が大きいものの、後から鍛えることが出来ると考えているし、これまでのコンサル活動でそれを実証できたと思っています。

2のコミュニケーション力も、持って生まれたものが大きいですが、論理思考を鍛えることである程度上げることが出来ます。

5の行動力だけは、知識やトレーニングではどうしようもなくて、自分で自分に鞭打って頑張るしかないのだと思いますが、一番の薬はモチベーションかもしれません。

 

論理思考力は、なぜ重要かというと、人間は思い込みの塊なのです。

個人個人の考え方や思いの中にも間違った思い込みがたくさん存在するし、人と人のコミュニケーションにも思い込みがたくさん入り込みます。

物事の本質にたどり着くには、「なぜなぜ」という疑問を持つ力をつける必要があります。

理屈ではわかっていても、ついつい人の言うことを鵜呑みにしてしまうものです。

また、情報は氾濫し、日々のコミュニケーションにフェイクな情報も多数入り込みます。

正しい情報を取捨選択して、正しい判断をするために、論理思考力は力を発揮します。

また、自分の思いや考えをわかりやすく表現するにも論理思考力が必要です。

わかりやすく説明することは、コミュニケーションを円滑にし、他人を説得するときに力を発揮します。

プロジェクトを進めるときに、重要なディシジョンをするには、トップや上司の説得が必須になります。

想いだけを伝えようとしても、うまくは行きません。

なぜそうなのか?その結果どなるのか?というロジカルでわかりやすい説明、プレゼンはプロジェクトマネージャーに必須の能力です。

 

 

危機管理については、PMBOKで学ぶことで知識は付きます。

段取り力は、ある程度経験が必要であって、近くに良い手本になる人からOJTで学ぶのが最も有効な方法だと思います。

うまくやっている人を真似るということです。

マーケティング思考は、マーケティングをまずは学ぶことです。

参考記事:マーケティングの学び方

市場に製品があふれ、顧客にとっての選択肢は大きく広がり、IT技術の急速な進歩、SNS、モバイル端末などによる顧客行動の変化によって、マーケティングも急速に変化しています。

従来のように製品視点から、STPマーケティングだけで製品企画をしていたら、厳しい競争に勝てません。

プロジェクトマネージャーは、世の中で喜ばれる製品を顧客に届けることが最大の使命です。

なので、マーケティング思考はかなり重要度の高い必須能力と言えるかもしれません。

 

 

「行動」は、教えられるものではありません。

PMBOK、論理思考力、マーケティングを学び、鍛えればあとは自分自身の行動だけですね。

 

 

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