台湾にある会社の学び続けるすごい社長と出会った話をします。
2017年5月に、台湾の製造企業向けにセミナーをやらせてもらったときに、知り合いから紹介されて、台湾の産業機械向けの部品を製造している会社の社長とお会いすることが出来ました。
この知り合いは、元トヨタで働いていたリーン生産のコンサルタントをやっている人で、この会社で生産革新の指導をしている人で、今回も同行してくださいました。
まずは、ご自宅に呼ばれてご家族含めて夕食に招待いただいたのですが、その会社の社員で日本語の上手な女性がホテルまで車で迎えに来てくれて、お宅に到着すると、玄関の前に一人のおじさんが立ってお迎えしてくれます。
まさかと思ったのですが、このおじさんがその社長で、我々の到着前からずっと玄関前に立って待っていてくださいました。
社長は、日本語も英語も出来ないので、女性社員が通訳をしてくれます。
満面の笑みで我々を歓迎してくれて、このあたりが台中の中の高級住宅地であることなどを説明してくれ、家の中に入ると、3階建てのエレベータ付でまさに高級住宅。書斎にはたくさんの本が並び、日本の生産革新に関する本がずらっと並んでいます。
最近はTOC(制約の理論)にもはまっていて、独学で学んでいるとにこやかに話してくれます。
成功者の驕りのようなものは全くなく、話のところどころで、私たちのことを先生と呼びながら、色々教えてください、というコメントを交えてきます。
豪勢な夕食を、奥様や3人の娘さんとともにいただき、社長のご経歴などを紹介していただくのですが、先生の話も伺いたいと、こちらの経歴などもお話しさせていただくと、すごく興味を持たれたようなお顔をされて、いろんな質問をしてくださいます。
多くの成功した人は、割と成功体験の話に没頭するし、聞く側もそれだけ聞けば本来は満足なのですが、あえてこちらのことにも興味を示していただき、話を膨らませていただくと、悪い気分はしないものですよね。
しかも、この社長の言葉の端々からは、こちらから何かを学ぼうとする姿勢が窺えるのです。
夕食はたくさんの高級ワインや中国の強いお酒をしこたまご馳走になって、ホテルに帰るとバタンキュー状態でしたが、翌日の朝から、社長の会社見学をさせていただきました。
まずは会議室でのお話から始まったのですが、冒頭で社長が言ったのは、「本当は先生たちからたくさんのことを教えてもらいたいのです。しかし、今日は時間の制約もあるので、こちらの紹介をメインでさせていただきます。途中で気が付いたことがあれば、ぜひとも遠慮なく言ってください。」ということでした。
ここでまた、この社長の学ぶ姿勢が強く表れます。
工場の話が始まると、次々と衝撃的な話になっていきます。
トヨタ生産システム(TPS)を学びながら、この工場では、5年間の間に製品のリードタイム(材料入荷から製品出荷まで)を5日から4時間に改善し、次のチャレンジは30分にするということで、一部の製品ですでに30分を達成しているというのです。
この改善には、彼らのお客さんやサプライヤーとの連携も重要で、お客さんへのTPSの導入のサポートなどもしながら、共に栄えるということをやって達成したのだそうです。
ロジスティック、つまり製品の出荷搬送も、お客さん同士の繋がり、話し合いを重ねて、お客さんを含めたグループのネットワーク全体で最適になる配送ルート、配送ルールなどを作り上げ、こんな驚きの数字を作り出しています。
また、徹底的な在庫削減を行い、部品、仕掛り、半製品、製品すべての在庫の合計が、売り上げの0.6%を達成している、つまり在庫回転率でいうと150回という脅威的な数字を達成しているのです。
この会社では、ERPの導入を検討されていて、社長はERP導入に関しても自分で旗を振って進めようとしていて、部品納入から生産、検査、出荷までの全プロセスを自分で横長の紙に書き入れて、それぞれのプロセスのどこにどんな課題があって、ERP導入でどんな課題解決が出来るのかを学んでいました。
すべてのことを社長自身も学び、理解して、かつ自分だけでやってしまうのでもなく、部下育成、権限移譲のこともしっかりと考えられているのには、本当に感心するしかありませんでした。
私は、EMS企業で働いていた経験もあり、世界中の工場を見て回っていましたが、フル稼働していてこんなにきれいな工場を見たのは初めてです。
社長は、我々をトイレに連れていき、「どうですか?きれいでしょ?洗面所の周りも一滴の水も残っていないはずです。」とおっしゃいます。
新入社員が入ってきたときに、最初に教えるのは、トイレを使った後は自分が使う前と同じ状態になるまで掃除をしてから出ること、だそうです。
入社したその日の朝いちばんに教える。だから、うちの社員は入社後、会社のトイレを一度も汚すことはないのだそうです。もし、トイレが少しでも汚れていたら、これは誰かお客さんが来ているというサインになるのだと、社長は笑って言ってました。
「次工程はお客様」ということを徹底するためだそうで、何だか1980年代の日本のTQC文化を思いだしました。
昼食を社員の方たちといっしょにいただきました。
この会社では、食事は朝、昼、夜も含めて、すべて無料で会社が提供しているとのことで、社員は自分のお茶碗とお箸を持ってきて、食事が終わったら自分できれに洗って会社に保管するのだそうです。
若い人が多い工場ですが、すべての社員の顔が輝いているように見えました。
最後のミーティングで、「ここまでやったら、もうやることないですね。」と言ったら、社長ではなく、社員の方が、「とんでもないです。やるべきことは山ほどあります。我々はグローバルで戦える会社になりたいんです。」と目を輝かせて言ったのは今でも深く記憶に残っています。
TQCの話をしましたが、1970~1908年代の日本もこんな感じだったのかなあと、ボンヤリと思いました。
「学ぶ姿勢」は、忘れたくないですね。
この社長と出会ってから、自分も学び続けること、他人から学ぶ姿勢を持ち続ける気持ちを維持することに心がけています。
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