「ザ・ゴール2」から学んだ思考プロセス

一生勉強

クライアントのエンジニアの方たちと読書会のようなことをやっていて、エリヤフ・ゴールドラット著の「ザ・ゴール2」はもう5回くらい読んでいます。

読むたびに発見があって、本当に勉強になります。

 

作品紹介

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題 名 : ザ・ゴール2 思考プロセス

著 者 : エリヤフ・ゴールドラット

訳 者 : 三木本亮

出版社 : ダイヤモンド社

 

ザ・ゴール2のストーリー解説

ゴールドラット著「ザ・ゴール2」は、世界的なベストセラーになった前作「ザ・ゴール」の続編として書かれたもので、ともに制約の理論(Theory Of Constraints :TOC)の解説書として広く読まれています。

両作品ともに、小説仕立てになっていて、工場長だった主人公とその部下たちが、TOCの考え方を身に着けながら工場を再生させて、さらに会社の収益向上にも貢献していったというのが、「ザ・ゴール」の話で、「サ・ゴール2」では、その後会社が多角化に向かい、出世してその部門の責任者となった主人公と、同じく出世して多角化部門によって買収した関連会社の社長になった3人の部下たちが、大株主の意思で多角化を止めて買収した会社を損切りして売却することが決まる中、その窮地をまたしてもTOCの手法を使うことで切り抜けて、最後は主人公が会社のトップ(CEO)になっていくという話です。

前作「ザ・ゴール」は、生産管理の手法としてTOCの基本的な考え方を教えてくれます。

著者のゴールドラットは、作品中にジョナというTOCの師匠を登場させ、自分自身を投影する形で、主人公のアレックスを通して、読者に様々なヒントを与えます。

特に工場の中の部分的な改善に満足しているアレックスに、全体のスループットを見なければ部分最適はまったく意味がないことを教えるところはこの本の一つの肝になっています。

会社、企業の究極的な目的は”儲けること”であり、全体最適でスループットの向上を図り改善し続けていくための5つのステップを下記のように定義します。

  1. 制約条件(ボトルネック)を特定する
  2. 制約条件を徹底的に活用する
  3. 制約条件以外を制約条件に従わせる
  4. 制約条件を強化する
  5. 惰性に注意しながら1に戻る

「ザ・ゴール」も「ザ・ゴール2」も、主人公の会社の話だけでなく、家庭内での出来事からもTOCの手法を理解するヒントが得られるような構成になっていて、その辺りも実際に問題解決の手法が生産管理ということだけに適用できるということではなく、様々なシチュエーションに応用できることを伝えようとしているのだと思います。

「ザ・ゴール2」は、思考プロセスということが大きなテーマとして取り上げられていて、TOC問題解決のフレームワークの使い方が、実際の例の中でたくさん紹介されていて、小説を読みながらTOC問題解決フレームワーク、つまり思考プロセスを習得していくことが出来ます。

物語の中に巧妙にフレームワークの説明が入っているのですが、TOC問題解決のフレームワークを学んだことのない人にとっては、一度読みとおしただけではすべてを理解するのは難しいと思います。

私自身、TOCの思考プロセスをそれなりに勉強した後に何度か読んでますが、読むたびに新たな発見があるくらいです。

TOCの問題解決フレームワークで、使われるキーワードがいくつかあります。

それらのキーワードが、作品中でどのように紹介されるかを解説していきますが、その前に、キーワード自体をご紹介しておきます。

  • 雲(クラウド)・・・対立解消図とも呼ばれ、問題の核心となるジレンマを表現
  • UDE(ウーディー)・・・組織内で起こっている好ましくない症状(Undesireable Effect)
  • 現状ツリー・・・UDEを因果関係で結んだ現在の状況を表すツリー
  • 未来ツリー・・・解決策によって好ましい状態が連鎖状に起こる様子
  • 移行ツリー・・・解決策を障害を乗り越えて実現させるステップ図
  • ネガティブブランチ・・・未来ツリーに副作用が入り込む連鎖

雲(一般的にはクラウドと呼ばれる)は、作品中様々なところで出てきますが、最初に出てくるのは、娘がパーティーで帰りが遅くなることを主人公がなぜ許したくないか、というシーンで出てきます。

娘に関する話は、ボーイフレンドや親友などとの関係から、いくつかの雲が生まれて、それらに共通の雲が出来るという記述もあるのですが、TOCの中でコア・クラウドを見つけていく過程で、いくつかの雲の共通項を作っていく話につながります。

さらに、息子と息子の友達が車を改造するという話の中で、ネガティブブランチの説明が入っています。

UDEに関しては、主人公が大株主の2人と会社売却のためにヨーロッパ出張をしている間に、雲の有用性の話から、雲を作る前に現状を良く分析する必要があること、組織の中に起きている問題(つまりUDE)は因果関係でつながっていて、実際は根本の一つか二つのコア問題に集約されているという説明をして、それを実際にやってみることで示しています。

このUDEの連鎖を因果関係でつないだものが現状ツリーということで、因果関係の元をたどるとコア問題がわかるという流れです。

主人公と大株主2人がたどり着いたコア問題は、「マネージャは、部分最適を達成することで、会社を運営しようとしている」ということになります。

ザ・ゴール2のストーリーは、主人公の部下3人が経営する子会社を、株主総会で売却することが決定していながら、売却を止めたい主人公が3つの会社の収益をTOCのフレームワークを使いながら大幅に改善していく物語になっています。

一つ目の会社は印刷会社で、超高速機を持たずに大量生産の世界では不利でありながら、中量分野ではセットアップの速さが強みになっている会社で、TOCのフレームワークを使って、コスト競争の激しい市場で価格は少し上がるが、変化の激しい市場で修正やキャンセルなどに柔軟に対応することで、顧客の収益向上につながり、自社の利益も増大させる方法を見つけ出します。

この印刷会社は、他の2社よりも早くソリューションを見つけたものの、実行の段階で少し躓きます。アイデアの発案者であるこの会社の社長以外の営業がうまくいかないのです。

これを、ソリューションがしっかりと実行されて目的が達成されるような手順、つまり移行ツリーを作ることで解決していきます。

二つ目の会社は化粧品会社で、こちらもTOCの思考プロセスを使って、販売店へのディスカウント額を一回ごとの注文量で決めるのではなく、年間の注文量で決めることと、商品の補充を一日単位にすることで、挙げられたUDEがすべて解決されることを未来ツリーを作って確認します。

しかし、ここでこのソリューションによって販売店が在庫を削減することで、一時的に売り上げが減少してしまうという、ネガティブブランチが発生することがわかり、さらにメンバーを悩ませます。

さらに検討して、ネガティブブランチを、委託販売という形式をとることで解決できることを発見していきます。

最後の会社は、高圧蒸気を作る機械を販売する会社ですが、ここは最後まで解決策が見つからずに苦労します。TOCの思考プロセスを使っても良いアイデアが浮かばず、売却までの期限が迫ってきて社長や社員はあきらめムードになっていくのです。

そこで主人公は、本気で顧客の立場に立つことで何かを見出そうと社員に質問しつづけます。

社員からは、出来っこないけどという意見が出され、そこから高圧蒸気の機械を売るのではなく、”高圧蒸気”そのものを売る会社になるという画期的なアイデアが出されます。

いわゆるシェーバーモデルとか、プリンターモデルというビジネスモデルを適用することで、顧客も会社もWin-winになるというアイデアにたどり着きます。

結果的に、主人公の3つの会社は売却前に大幅な収益改善を果たし、当初の予想よりもはるかに高い値段で売却されていくことになり、主人公は大株主と現CEOから次のCEOになって欲しいというオファーを受けてストーリーは終了します。

 

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ザ・ゴール2からの学び

この本は、TOCの思考プロセスを詳細に解説した本ですが、実にたくさんのことを学べます。

私自身は、TOCの思考プロセス自体は別途に学んでいたので、この本からだけ学べたことを箇条書きにしてみます。

  • 仕事以外の家庭生活の中の問題にもTOCの思考プロセスが有効であること
  • 多くの企業が抱えるコア問題として、「マネージャーが部分最適に動いている」ことに気づいたこと
  • マーケット・セグメンテーションのメリットを生かすことが重要であること
  • フレームワークは考える手順を教えてくれるが、答えは自分が考えること
  • 相手(顧客)に寄り添って始めて道が開けること
  • 思い込みや自分の中の常識がアイデア発想の邪魔をしていること
  • 追いつめられるときに人は力を発揮できることがある

ザ・ゴールも、3か月で工場の生産性を上げなければ、工場を閉鎖という追い込まれたところからスタートして問題を解決していきます。

ザ・ゴール2では、会社を整理・売却というところに追い込まれて、必死になって答えを見つめていきます。

背水の陣という状況も大事だなと思ったのと、同時に多くの企業で問題を抱えていても、問題意識を持たないこと、あるいは問題意識が弱いということは、自分で自分を追い込んでいないことになって、だから必死になって問題解決に進めないのではないかということに思い至りました。

マネージメントとして、全体最適が重要であること、会社の究極の目的が利益を上げることでそのためのスループットに着目すべきことという本題とともに、会社を改革していくための危機感の共有、徹底ということも重要な要素として捉えたいと思います。

 

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まとめ

著者のエリヤフ・ゴールドラットは、「ザ・ゴール」「ザ・ゴール2」を通して、”考える”ことの大切さを伝えたかったのだと言われています。

物理学者として、企業内の問題解決を科学的に分析し、かつ理想論ではなく現場の泥臭さも十分に考慮することで、壮大なフレームワークを作ったわけですが、フレームワークはあくまで考えるヒントであり、最後は人が考え抜いて解決策を見出していきます。

ゴールドラット自身が、作品中にジョナという先生になってメッセージを出すのですが、ジョナは決して答えを教えません。

答えを教えずに考えさせることで、本当の意味で知識が身に付くのだということも教えてくれます。

さて、この本を読んで感銘を受けたのであれば、今度はどうやって実践するかを考えていきましょう。

繰り返し読書と組織内での共有のすすめ

この本に限ったことではありませんが、良い本というのは、たくさんのことを学べるのですが、しっかり理解して学んだことを実践することは、実はそんなに簡単ではありません。

一度読んだら完璧に理解して活用できるという凄い人も、この世の中にはいるのかもしれませんが、私をはじめ多くの人には難しいのだと思います。

繰り返し読むこと、そして読んで学んだことを他の人と共有することで、知識を確固たるものにして、さらに組織にとって必要なものと判断されたら、組織内での知識の共有と、そこから実践へと繋げていかなければ、せっかくの知識が無駄になってしまいます。

 

TOC実践の支援

製品開発組織向けのコンサルティング活動の中で、これまでに5つの会社でTOCの思考プロセスの実践指導をしてきました。

フレームワークを使えるようになるには、多少の時間が必要です。

雲(クラウド)を作るという練習をすると、参加メンバーの思考方法に変化が出てきます。

組織改革に応用してみたいと思われたら、下記の問い合わせからご相談ください。

 

 

 

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