説得力は、ビジネスには大変重要な能力ですね。例えば、営業で顧客を説得して売り上げを上げる、営業意外でも上司を説得して自分の提案を通す、など重要な場面で差が付きます。
どうやったら説得力を強化できるでしょうか?
説得力の実体とは?
社会人になったときに、人事部長さんからデールカーネギーの「人を動かす」と「道は開ける」は絶対に読みなさい、と言われたことを思いまします。
その「人を動かす」の中に、「世の中のすべての人、どんな悪人であっても、自分は正しいことをしていると信じている。」というようなことが書かれていたのを思い出します。
説得力の第一歩は共感力
要するに、多くの人が説得で間違えるのは、自分が正しくて、相手が間違っているから私が説得する、という態度で臨むことで説得は成立しないのだ、ということです。
なので、説得力のある人になる第一歩は、相手も自分が正しいと思っている、という認識を持つことだと思います。
そして、相手に共感する、本気で相手が考えていることを理解することから始めることだということです。
この考え方は、実は「説得力」だけの問題ではなくて、様々な場面に共通の考え方だと思うのです。
新製品の企画をするときや、新規事業を考えるときも同じことが言えます。
顧客思考という言葉で語られますが、これも顧客の立場になり切って、100%顧客に共感するところから始めないと、手前味噌な製品だったり事業になって失敗しますよね。
顧客側に立って、顧客も気づかないような顧客が求める進化を手助けすることで、新製品や新規事業が成功するのではないでしょうか?
会社の中で上司に対して何かを提案することを考えてみます。
良くある話ですが、上司が雲の上のような存在で、普段、なかなか直接話すこともありません。
仕事はそこそこ充実しているものの、体制や自分の処遇に不満もあります。
飲み屋に行けば、上司の悪口で盛り上がって、俺だったらこういうことをやるのに、などと仲のいい仲間と普段から話をしています。
いざ、ここぞという時に上司に提案する内容が、気持ちの中で上司の気づいてないところを指摘して、それによって会社にとっても良くなることを提案していると思いながら提案することってありませんか?
どうですか?うまく行くこともあるかもしれませんが、私の経験では、このような提案は受け入れられない傾向があると思います。
USJを立て直したことで有名な森岡毅さんは、著書「マーケティングとは組織革命である」の中で、組織を改革するために下から提案を通すためには、上司を批判していては絶対にダメで、上司が本当にやりたいことを理解しろ、とおっしゃっていて、この考え方を社内マーケティングという風に捉えています。
そうなんです。
説得力の第一歩は、相手を理解し共感すること、言い換えるとマーケティング力なのだと私は思います。
正確に伝えることの重要性
相手と共感できて、相手の本当の思いを知ることができたら、次に大事なことは、自分の提案や思いをわかりやすく説明することです。
「わかりやすい」というのは、どんな時でも重要です。
エンジニアが技術的な話や提案をするときに、難しい話で煙に巻いてやろうという意図がありありで、よくよく突っ込んでみると、本人も良く理解していないなんてことも私の経験ではたくさんありました。
表面上の会話のいい例だと思います。
また、「わかりやすい」ということは、間違って伝わらないということなのです。
人間は思い込みの塊です。
双方での思い込み、つまり前提条件がずれていると、言葉の表面では合意しているように見えても、実は思っていることが違っているというケースもしばしば遭遇することがあります。
シンプルに正確に伝えるためには、本人がシンプルに正確に提案や思いの本質を捉えていなければなりません。
本人の提案なのだから、本質も何もないだろうとおっしゃる方もいるかもしれませんが、実はそうでもなくて、本人の提案が穴だらけということも良くあることです。
自分が提案したいことを深く理解していないのに、それを他人に説得できるわけはありません。
よくある姿は、上司は客観的に部下の提案を聞いて、率直に思った疑問点を質問するのですが、それに対する答えが支離滅裂で、化けの皮が剥がれていくという光景です。
自分で自分の提案やアイデアを論理的に突っ込み切れていなくて、表面的な理解しかしていないことが原因だと思っています。
これを私はロジカルシンキングが足りていないと考えていて、説得力の第二歩目は論理思考力だと思っています。
プレゼン力で感動を与える説得
わかりやすく伝えるということの総仕上げとして、プレゼン力を挙げておきます。
口がうまい、話し方が上手ということで、説得力を確保しようということについてはあまり賛同しませんが、それでもプレゼン力はやはり重要だと思います。
トヨタでは、かつて報告書はすべてA3一枚にまとめるということが慣習となっていたそうです。
大事なことを一枚に簡潔にまとめることによって、報告を受ける側も短時間で理解ができることで、会議の大幅な時間短縮が出来るというトヨタ独特の文化として、たくさんの書籍も出ています。
今でもA3報告書文化というのはトヨタの強みになっているそうですが、さすがに実際に会議ではパワーポイントも使われるようになっているようです。
ただし、パワーポイントを使う時でも、まずはA3に報告内容を簡潔にまとめ、起承転結、ストーリーをしっかり作ってから、それをパワーポイントに展開するというのが、トヨタウェイを引き継いだ人たちのやり方になっているのだそうです。
多くの会社では、報告にパワーポイントが使われることが多くなっていますが、好きなだけ枚数を使って、好きなことを報告しようとするので、聞いている側がたまったものではなく、私もかつて報告を受ける側の時に、報告の途中で、「あと何枚あるの?」と嫌味たらしく言ったことがあります。
口のうまさではなく、起承転結、ストーリーで使えるプレゼン力は説得のための大きな力になると思います。
説得力のある人に変わる論理思考トレーニング
説得力のある人に必要なのは、マーケティング力、ロジカルシンキングとプレゼン力という話をしました。
では、3つの力を鍛えて、説得力のある人に変わるにはどうしたらいいかという話をします。
マーケティング力トレーニング方法
マーケティング力とは言っても、プロのマーケッターになるということではなく、基本的には相手のことを思いやる心、相手に共感する癖をつけることです。
マーケティングは、モノを売るための仕組みという程度で考えている方も多いかもしれませんが、市場に様々な製品が出回り、IT技術の進化でSNSをはじめ人々のコミュニケーションの形が大きく変化し、多様性が進むと、マーケティングはもはや全社で取り組むべき課題になっているとも言われています。
マーケティングは単に企業から顧客への説得だけではなく、様々な人と人のコミュニケーションでの共感、説得、納得ということの潤滑油になる考え方だと思います。
今のマーケティング学は、世の中の変化を捉えて、顧客の行動が大きく変化している状況、企業の社会貢献の必要性などを網羅して、人と人、人と企業、企業と企業の間での共感について深く洞察しています。
なので、マーケティング力は、まずは今のマーケティング理論を学ぶことから始めるべきだと思います。
マーケティング担当ではないから、などと言っていては時代に取り残されますよ。
参考記事:マーケティングの学び方
ロジカルシンキングのトレーニング
ロジカルシンキングは頭の使い方を鍛えていきます。
2つの口癖をつけてください。
- それは何故ですか?
- だからどうしたのですか?
これを自分自身に向けても、他人に向けても使い続けてください。
「それは何故ですか?」は、いわゆる「なぜなぜ5回」というやつです。
言葉の上辺だけでわかったふりをして納得してしまう癖を治します。
5歳児のように、様々なことに疑問を持ち続けて、実際にそれを追及する癖をつけることで、ものごとの本質に迫ることが出来ます。
わかったふり=一種の思い込みです。
「だからどうしたのですか?」は少し言い方を気をつけないと、嫌な人になってしまいますね。
以下のような会話で、ものごとを掘り下げていくことです。
A:あなたの提案を取りいれるとどんな良いことがありますか?
B:例えば、部下の状況を上司が正確に把握できます。
A:上司が部下を把握できるとどんなメリットがありますか?
B:部下の状況を把握することで、問題を未然に察知できます。
A:問題を未然に察知できるとどうなりますか?
B:先手を打って対処できるので日程遅れが発生しません。
A:つまり貴方の提案で日程遅れがなくなるということですか?
B:そういうことです。
A:日程順守率はどれくらいですか?100%と思っていいですか?
B:・・・・・
後半になるにしたがって、Bさんも嫌気がさしてくるかもしれませんね。
しかし、これが組織内のコミュニケーションの質を上げることに繋がります。
また、Bさんは、やはり近視眼的なモノの見方が強く、目先のメリットをまず口にしています。
ただ、経営者に近い立場になるほど、最後のどれくらい日程を守れるのかという結論を知りたがります。
当然ですね。
このギャップが、説得力を弱めてしまうのです。
「それは何故ですか?」と「だからどうしたのですか?」という質問は、説得すべき相手からされる前に、自分自身で自問自答しておく癖をつけることで、説得力のある説明が出来るようになります。
だから、まず、この2つを口癖にしていくのです。
A3報告書で起承転結を考えプレゼンのコツを掴む
マーケティング力と論理思考力をつけるだけでも、かなり説得力が上がると思いますが、最後のトレーニングは、いわゆるプレゼン力、プレゼンのコツです。
プレゼン力と言っても、話す力やワザについては、この記事では対象外とします。
ここで言いたいのは、シンプルにわかりやすいプレゼンということです。
だらだらと言いたいことを順番に書きたいだけ書くプレゼン資料は、相手に届きません。
大事なことは、シンプルにわかりやすく、相手の立場や思い、前提条件を理解して、しっかり伝えるという姿勢だと思います。
報告書で伝える能力を高めるには、トヨタが実践するA3報告書を使うのが一番良いと私は思います。
組織全体で知識を共有、再利用するために、人にわかりやすく伝える文化を作り上げるのです。
A3一枚に簡潔にまとめるのは、慣れないと難しいです。うまく書くためのコツがあります。
また、報告書の質を向上することを作成者本人だけに押し付けるとうまく行きません。
報告書を会社の資産と考えることで、組織として報告書の質を上げる取り組みをすることで、わかりやすく伝える文化が組織内に出来上がり、結果的に説得する力を上げることができます。
参考記事:報告書の書き方改善で組織改革を行う事例
説得力、コミュニケーション力を組織的に向上させることを考えるなら、トヨタ式のA3報告書、またはリーン製品開発手法を展開することも考えてみるといいと思います。
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